企業がCO2排出量を算定する目的とは(第1回)
「CO2の算定ってどうやるんですか?」
今春開催された、脱炭素をテーマにした展示会に説明員として参加していたときに、何度となく頂いたお悩みごとです。二言目は、こう続きます。
「取引先から言われたんだけど、何から始めればよいか分からなかったので、とりあえず来たんです」
グローバル企業から始まったGHG排出量算定は、国内の大企業にも浸透し、バリューチェーンでつながっているサプライヤーにも影響が及んできたことを、如実に表している事象かと思います。
お声かけ頂いたのは、中小企業の経営者の方々ばかり。事業の継続性に関わる課題と認識されているからこそ、このような行動を起こされたのでしょう。
一昨年の展示会では、このようなことは無かったように記憶しています。それだけ、気候変動情報を始めとする非財務情報の開示要請が、急速に拡がりを見せていると言えます。
私自身は、2009年に国内クレジットという、今のJ-クレジットの前身が始まって以来、GHG排出量の算定に携わってきました。
J-クレジット制度
https://japancredit.go.jp/
「カーボン・クレジット」という用語も、GX推進戦略に盛りこまれたこともあり、ようやくメディアでも採り上げられるようになりましたが、その基本は算定です。
脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230728002/20230728002.html
PDD(Project Design Document)という計画書を作成する際にも、実施期間終了後に実績を確認する際にも、算定が必要です。
また、環境省は2011年から数年間に亘って、「カーボン・オフセット」及び「カーボン・ニュートラル」という2つの認証制度を実施していましたが、この制度においても算定が必須でした。(サイトは既に削除されています)
GHG排出量の削減を条件に補助金を支給するSHIFT事業(2012年〜2022年まではASSET事業として実施)では、金銭の授受が発生するために、算定結果は、第三者検証機関による検証が義務となっています。
SHIFT事業(環境省)
https://shift.env.go.jp/
このように、算定は何かしらの目的を持って実施されるのが一般的です。クレジットの認証では、「カーボン・クレジット」という「商品」を作る基礎データを確定するために行われます。
カーボン・クレジットについては、2022年6月に経済産業省が「カーボン・クレジット・レポート」を公開しています。詳しくは、こちらを参照ください。
カーボン・クレジット・レポート(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220628003/20220628003-f.pdf
それでは、これから皆さんが算定を行おうとしているとしましょう。
その場合の、算定の「目的」は何でしょうか。
冒頭でご紹介した社長さんであれば「取引先への回答」と仰るでしょう。サスティナビリティ担当の方であれば「CDP質問書への回答」あるいは、「SBT認定申請」や「統合報告書」、財務部の担当者であれば「有価証券報告書」、ファシリティー担当であれば「温対法・省エネ方の報告」かもしれませんね。
CDPジャパン
https://japan.cdp.net/
SBTi
https://sciencebasedtargets.org/
この時に気をつけないといけないのは、どのような活動によって排出される排出量なのか、そして、活動のどの部分における排出量なのか、という点です。算定においては、組織境界やバウンダリーなどと呼びます。
例えば、CDPやSBT対応であれば、組織の活動が算定の対象であり(組織の排出量)、条件によって、自社だけの排出量なのか、取引先まで含めた排出量なのかが変わってきます。(GHGプロコトルでは、前者をスコープ1およびスコープ2排出量、後者をスコープ3排出量と呼びます)
GHGプロトコル
https://ghgprotocol.org/
図 1 企業単位の排出量
取引先への回答であれば、製品の製造に関わる活動が算定の対象であり、材料調達から自社倉庫を出荷するまでに排出される排出量(製品単位の排出量)を算定することになります。(Cradle-to-Gateと呼びます)実務では、自社手配で納品されている場合が多いことから、取引先までの輸送による排出量まで含めることが多いです。
図 2 (取引先へ回答する)製品単位の排出量
したがって、算定の出発点で「目的」が明確化されていないと、参照・準拠すべき適切な規則・ルールが特定できず、無駄な作業や手戻りが発生してしまいます。データ収集は各部署へお願いすることになりますから、多大な迷惑をかけてしまうことにもなります。
さて、算定の「目的」は明確になっていたとしても、その先まで視野に入っている方は、どれくらいいらっしゃいますか?
多数の算定支援をしている中で、一番多いのが「算定自体が目的化」している例。算定結果を開示して、満足しているのです。実務を担当された方ならお分かりかと思いますが、相当の工数です。
内製であれば労務費だけと思いがちですが、協力して頂いている各部署の担当者にとっては、通常業務外の業務。ともすると、やらされ感が募り、来年以降協力頂けなくなるかもしれません。算定体制の構築にも配慮が必要です。
外部に委託していれば多額のコンサル料が発生しているはず。そうなると「来年も行う必要があるのか」と経営層から疑問の声もあがるかもしれません。担当者として、どのような説明をしますか?
次回は、「算定のその先」について、ご案内していきたいと思います。
Permanent Planet株式会社
兼 園田電気管理事務所
園田隆克