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地球温暖化の真実と化石燃料からの卒業(第1回)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)のレポート*を基に科学的知見から地球温暖化の真実、つまり温暖化の緊急性と、その対応策を企業経営に携わる全ての人に知っていただくことを目的としてこのブログをお届けします。
*IPCCのレポートとは2023年3月20日に発表された第六次評価書報告書AR6統合報告書です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル | 地球環境・国際環境協力 | 環境省 (env.go.jp))

 

温暖化は人間活動の影響か
 地球温暖化の原因とされている温室効果ガスの排出は、化石燃料由来の二酸化炭素の他に土地利用変化由来の二酸化炭素、それ以外の温室効果ガス(メタン等)がありますが、なかでも化石燃料由来の二酸化炭素の排出が最も多く、また単年度の排出量よりも累積量が重要です。過去30年間の累積量は産業革命以来の約半分におよび、1990年代にこの問題に気づいていながら手をこまねいてきた我々世代に大きな責任があるといえます。その結果、大気中の温室効果ガスの濃度は1850年代に300ppm以下だった数値が、2019年までに410ppmと加速度的に増加したのです。

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〔IPCC AR6 SYR, Longer Report Fig.2.1a,b〕より引用

 

 世界の平均気温は産業革命以前と比較して約1.1℃上昇しています。これは人間活動の影響なのでしょうか。人間活動の結果である温室効果ガスの影響が1.5℃の上昇分あります。温室効果ガスの増加が原因で赤外線が宇宙に出にくくなり、地球の温暖化に繋がっています。一方でエアロゾルと呼ばれる大気汚染物質が日射を遮ることによる冷却効果により、その上昇を0.4℃ほど打ち消しています。太陽活動の変動、火山の噴火、気候システムが本質的に持つ揺らぎ(内部変動)の影響は気温上昇にさほど影響していません。つまり人間活動による影響が気温上昇に繋がっているということは、疑う余地がないと結論づけられています。 

 

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〔IPCC AR6 SYR, Longer Report Fig.2.1c,d〕より引用


科学的な共通認識であるカーボン・ニュートラル
 この科学的知見を基に国連はパリ協定を2015年に採択し、長期目標として世界の平均的気温上昇を産業革命以前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することについて世界中で協力しあうことに合意しました。その後のグラスゴー気候合意(2021年)では世界の平均的気温上昇を1.5℃に抑える決意が合意されています。すでに1.1℃上昇しているため、目標まであと0.4℃しか余地がありません。目標達成するためには最近よく聞く「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収による除去の均衡を達成する」というカーボン・ニュートラル、あるいは排出量ネットゼロとよばれる状態が必要です。こういった対策を実現化せずに地球温暖化を止めることは出来ないというのが世界的に共有されている科学的認識です。

科学的な共通認識であるカーボン・ニュートラル
 
気温変化のシミュレーションを行ってみると、もし何も対策を講じなかった場合には2100年時点において全世界的に気温が平均5℃程度、場所によってはもっと上昇し、対策を講じた場合との差が歴然としています。 

 温暖化が進むといわゆる異常気象が増えます。年最高気温は当然、世界中で記録を更新し続けます。また、地面からの水分の蒸発が増え、中南米、地中海沿岸、南アフリカや中国のようにもともと乾燥しやすい地域では干ばつが深刻化します。また、温暖化の影響で大気中の水蒸気が増えるため、同じ低気圧でも記録的な大雨が降りやすくなるといった極端現象が増加します。

第1回_04〔IPCC AR6 SYR, Fig.SPM.2〕より引用、訳・注は引用者による

 また、温暖化が進むと生態系や人間に与える影響が深刻化し、様々な点において地域差が拡大します。まず生物種の損失リスクも高まります。平均気温4℃の温暖化では、特に低緯度に生息する多くの海洋生物の絶滅するリスクが高まります。温暖化するとともに湿度が高くなると人間も汗をかきにくくなり、熱中症を起こしやすくなることで生命の危険につながるリスクが高まります。 


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〔IPCC AR6 SYR, Fig.SPM.3a,b〕より引用、訳・注は引用者による

 さらに、温暖化は当然ながら農業にも影響を及ぼします。例としてトウモロコシへの影響を見ると、平均気温が上昇するにつれて低緯度の地域では生産性が減少すると言われています。ただこの分析には農業技術の向上などは入っていません。一方、温暖化による農作物への病気や害虫の影響は考慮されていませんので、実際の生産性はもっと悪化することも考えられます。漁業については、グリーンランド付近の高緯度海域では漁獲量が温暖化で増える予想がされていますが、一方で低緯度から中緯度における漁獲量が激減すると考えられています。これ以外にも大雨によるインフラの破壊などの影響も鑑みる必要があります。 

第1回_06〔IPCC AR6 SYR, Fig.SPM.3c〕より引用、訳・注は引用者による

 

 温暖化により海面が上昇することは皆様すでにご存知かと思います。これには理由が二つあります。ひとつは、陸上の氷が溶けて海水が増えること。二つ目は海水の熱膨張によって体積が増えるからです。産業革命以前と比較し世界平均で海面は既に20cm上昇しています。世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えられた場合でも今世紀末に50cmの上昇が予想され、対策を講じないままでは海面が1mも上昇すると言われています。そして最悪の場合、南極氷床が不安定化し、海面上昇が加速する可能性を排除できません。気温がある臨界点(ティッピングポイント)を超えると氷が自身の重さで崩れ始め、歯止めが利かなくなる恐れがあり、この場合には今世紀末に海面が2mメートルまで上昇するかもしれないのです。 

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〔IPCC AR6 SYR, Longer Report Fig.3.4a〕より引用

 温暖化が止まり海面の2m上昇などという最悪のケースにならなかったとしても、2150年、2300年にかけて海面上昇は続きます。温暖化が2℃以内に抑えられた場合でも2300年には海面が産業革命前よりも50cmから3m上昇すると予想されています。もし私たちが何の対策もとらなければ海面上昇は、2mから7mにもおよぶと予想されています。さらに南極の氷が不安定化してしまった場合には15mの海面上昇が予想されています。 

 もうひとつ大事な事は、温暖化の原因に相対的に責任が少ない人たちが深刻な影響を受けるという事実です。排出量が少ない国の脆弱性が高いという不公平な構造があります。例えば貧しい国では災害の備えがなく、インフラの整備が十分でない場合や、貧困によりその地域の人々の生活再建を迅速に行うことが難しいというのが現状です。干ばつが深刻化して農業ができなくなったり、高潮で畑や家が流されたりと極めて理不尽な状況です。これらの人々の気持ちになれば到底受け入れることのできない状況でしょう。このような状況が難民を生み、人々が大量に移動することで国際秩序が不安定化することも心配されます。

第1回_08〔IPCC AR6 SYR, Longer Report Fig.2.3b〕より引用、訳・注は引用者による

 

第二回では二酸化炭素の排出削減目標とその対策についてお伝えします。

 

東京大学 未来ビジョン研究センター教授
国立環境研究所 地球システム領域 上席主席研究員 
江守 正多