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カーボン・オフセット譚(第3回)

 これまで、カーボン・オフセットの普及展開やクレジット活用のルールについて述べてまいりましたが、今回と次回は具体的なカーボン・オフセットの事例を用いて企画から算定、実施までの流れを紹介いたします。

 目標の達成へ活用
 前回にも述べましたが、脱炭素活動は本質的にはCO2排出量の総量を削減する必要があり、他社がCO2排出削減をした成果であるクレジットを用いたカーボン・オフセットは排出量の削減目標のマイナスカウントに算入させることは出来ません。

 

図_第3回_01

環境省「SBTについて」

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20220308.pdf


 ただし、上記環境省の資料下部に記述のとおり、再エネ由来のJ-クレジットについては、「再エネの調達量」として、各種制度に活用が認められており、例えば目標を達成することのできるイニシアティブとしてRE100や再エネ100宣言があげられます。

再エネ100%の達成
 山形県最上町の建設会社「山田建設株式会社」は、再エネ100宣言に参加した2018年より自社の敷地内に設置した太陽光発電設備の電力を活用し、不足分の購入電力については再エネJ-クレジットを活用することで、再エネ100%を達成し続けています。
 また、再エネ100宣言の目標範囲外の化石燃料の消費によるCO2排出量についても、省エネ系J-クレジット等を用いることでカーボン・オフセットし、Scope1,2の排出量をゼロカーボンとする県内初の建設会社として、東北経済産業局からの表彰やメディアへの掲載など話題を集めてきました。
 現在は、より本質的な再エネ経営を目指し、再エネ電源から供給される再エネ電力を調達できる契約へ切替えています。

図_第3回_02
山田建設HP https://yamada-inc.jp/eco/index.html


排出量と目標と達成状況の開示が大切
 目標達成にクレジットを用いるにあたっては、自社のCO2排出量や削減目標、達成状況の開示し、クレジットによるカーボン・オフセットが目標達成にどう影響しているのかを明らかにすることが大切です。特に「100%達成」にあたっては、その対象範囲や数値の信頼性、達成の方法などを開示するとともに、そこに至るプロセスや経営層の考え方なども反映させることが望ましいとされています。

図_第3回_03
山田建設HP https://yamada-inc.jp/eco/index.html


 また、自社のウェブサイトのみならず、参加する脱炭素目標イニシアティブのウェブサイトなど客観的な場所における目標の開示なども社会への説明と脱炭素の普及という点で大切です。
中小企業である山田建設では、RE100には参加できないため、再エネ100宣言にいち早く参加し、自社の再エネ導入状況を開示しました。
 その他の中小企業が参加可能な脱炭素イニシアティブとしてはSBTがお勧めです。大企業ほど認定取得のハードルは高くないながら、Scope1,2の把握と開示、中長期目標を立てることを国際機関から認定を受けることができるため、脱炭素経営に取り組むにあたっては網羅的な環境情報の整理ができると思います。

図_第3回_04
再エネ100宣言 https://saiene.jp/casestudy2020


 一方、大企業特にプライム上場企業においては、Scope1,2に加えて、サプライチェーン全体を対象としたScope3の算定と削減目標の設定、達成にむけた計画や事業に影響するシナリオ分析と戦略立案などをTCFDのガイダンスに従って開示することが求められています。
2022年からCDPの質問書もこれまでの時価総額上位500社からプライム上場企業1,841社に拡大されるため、多くの企業がCDP回答のためにサプライチェーン排出量の把握を徹底し始め、取引先へも算定要請が広がると思われます。
 省エネ法や温対法といった国の制度よりも早く、サプライチェーンにおけるCO2排出量の把握が求められる大企業から取引先企業への要請はすでに動き始めています。
 再エネ由来のJ-クレジットや非化石証書は、こうした脱炭素への大きな動きの中で、有効活用できるものですが、安易な目標達成手段として頼りきるのではなく、エネルギー使用量の総量を削減することと絶えず平行で考えていく必要があります。

図_第3回_05
海外系の脱炭素イニシアティブ事例

「にせもののゼロ」と言う勇気
 山田建設の山田社長は自社の環境活動レポートにおいて、クレジットの活用について「にせもののゼロ」と表現しています。お金でクレジットを購入することで脱炭素アクションや思考を終わらせず、実際のCO2排出量を削減することが理想である考えを公に伝え課題意識を共有することもカーボン・オフセットの実施において大切な表現だと思います。

図_第3回_06

 山田建設「環境活動レポート」https://yamada-inc.jp/eco/report/202021_ecoreport.pdf

  次回は、ボランタリーなカーボン・オフセットの事例について紐解いてまいります。

 デジタルグリッド株式会社
 REC Manager 池田陸郎