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カーボン・オフセット譚(第2回)

 今回はカーボン・オフセットの目的に応じて活用できる環境価値の種類や実施のあり方、信頼性の担保方法などについて述べてまいります。

 

目標の達成か、ボランタリーか

 CO2排出量を打ち消す広義の意味でのカーボン・オフセットとしては、温対法やRE100などの制度・システムに対応する事業者が、義務的または自主的に設定する目標達成のために実施する場合(便宜的に「コンプライアンス目的」と表現します)と、制度には関連しない分野(例えばイベントや商品の付加価値向上など)におけるボランタリーな脱炭素アクションとして実施する場合に大別されます。

コンプライアンス目的はルール準拠でシンプルに
 コンプライアンス目的でカーボン・オフセットを行う場合は、対応する制度で活用可能な環境価値や使用方法といったルールが決められており、このルールの事務的な確認がオフセット実施者にとって重要ですが、ルールに準じていれば目的としての義務や目標を達成できる意味ではシンプルです。
 どの制度にどの環境価値が活用できるのかは、以下図のとおりですが、様々な制度と価値が交錯しており、義務や目標を達成することをゴールとするならば、事業者は自社が対応する制度に安価かつ安定して利用できる価値を選ぶことが求められます。
 環境価値については、入手可能な方法や価格がしばしば更新されるため、実際に購入し活用する場合は制度のウェブサイトなどを改めて確認することをお勧めします。
 なお、環境価値を用いたカーボン・オフセットは、地球上のCO2排出量の総量削減に対して直接的に貢献しえないため、脱炭素アクションとしての表現には留意が必要です。このテーマについては次回以降で述べてまいります。


図_第2回_01
*1 電力とセットで相対取引がある場合またはトラッキング属性を付与する場合は可能
*2 勘案されるのみ
*3 仲介事業者または小売電気事業者から需要家への転売のみ可(仲介事業者間・小売電気事業者間・需要家間の転売は不可)


ボランタリーなカーボン・オフセットは腹落ち感が重要
 一方、ボランタリーなカーボン・オフセットにおいては、義務や削減目標の達成を目的とせず、環境活動としての訴求力とPR効果を高めることを一旦のゴールとする場合が多いため、実施者は社会からの共感と腹落ち感を得やすく、分かりやすい「カーボン・オフセットストーリー」を構築する必要があります。「一旦のゴール」というのは、CSR活動等の実施による企業イメージの向上等を指します。カーボン・オフセットの真の目的は、瞬間的なPR効果ではなく、社会における脱炭素への意識や関心、追加的なエコアクションを広げ、継続的で本質的なCO2削減を促すことであるべきだと思います。
 いずれにせよ、事業者は脱炭素経営に取り組む実績をより効果的に社会へ訴求するために、現在に至るまで様々アイデアでカーボン・オフセットを展開している状況です。
 
 しかし、事業者が良かれと考えて実施するボランタリーなカーボン・オフセットは、時として実施内容や表現方法によって、事実と異なる「悪い印象」や「良すぎる印象」を顧客や消費者へ与えてしまう可能性があります。
例えば、
「このお茶はカーボン・オフセットによりCO2を打ち消す地球にやさしい商品です。」
と書かれた商品に対し、どのような印象を持つでしょうか?
「CO2を打ち消す」「地球にやさしい」といった表現から、環境に良い商品である印象を受けますが、以下のようなリスクが潜在すると考えられます。

① 事実を誇大に表現している場合
 例えばカーボン・オフセットに費やす費用がこのお茶1本あたり0.1円しか拠出していなくても上記のような表現の範囲に収まってしまいます。さらに0.1円で打ち消すCO2の量は、お茶の何のCO2を打ち消しているのかも不明です。
消費者に良い印象を与えようとするあまり、曖昧な表現でお茶を濁すことは、事実が明らかになったときのオフセット実施側の評価を著しく下げることにつながります。

② 事実が過少に受け取られる場合
 一方で、このお茶の栽培からペットボトルの製造~廃棄、流通などのライフサイクル全てのCO2を、お茶の産地の森林クレジットでカーボン・オフセットしている場合でも上記の表現に収まります。①の場合と比べて、非常にしっかりとCO2を把握し、網羅的なオフセットとともに森林の育成にも貢献できる取組みですが、表現の文言からはそれが分かりません。

 以上のようにボランタリーなカーボン・オフセットにおいては、取り組み内容や使用するクレジットの内容によって、社会が受ける印象や腹落ち感が大きく変わります。こうしたリスクや機会を想定し、あるべきカーボン・オフセットの形を整理するために、環境省が「カーボン・オフセットガイドライン」を施行しています。
 カーボンオフセットガイドラインでは、打ち消すCO2排出量の対象範囲の決め方や算定方法、オフセットする割合や量、表現方法などについて網羅的に「望ましいあり方」が記されています。ボランタリーな活動である以上、法律で定められた方法は存在せず最終的には実施者の自己判断に委ねられますが、このガイドラインに準じて取り組む限りにおいて、無用なリスクを大きく回避することが出来ます。

 

図_第2回_02

環境省:カーボン・オフセットガイドライン目次より抜粋(http://offset.env.go.jp/document/jcs/guideline_ver.2.0.pdf

 

第三者認証ラベル

 事業者の取組みや商品・サービスの質を担保する目的で、一定の基準等をクリアすることを第三者が認めるシステムはJISマークやPマーク、FSC認証をはじめ数多く存在しますが、カーボン・オフセットにおいても、「カーボン・オフセット第三者認証基準(http://offset.env.go.jp/document/jcs/kijun_4.1.pdf )」に準拠することを第三者機関の確認を経て発行されるカーボン・オフセット認証ラベルが存在します。カーボン・オフセット認証ラベルは信頼性の高いカーボン・オフセット活動の証として環境省が2012年度に創設し、現在は一般社団法人カーボン・オフセット協会が運営しています。
 国の設定した認証基準をクリアしていることを重視し訴求する実施者がラベルを取得し、商材やイベント等で展開しています。

 

図_第2回_03

図_第2回_06

カーボン・オフセット協会:カーボン・オフセット第三者認証プログラムより(https://www.jcos.co/%E5%8F%96%E7%B5%84%E4%B8%80%E8%A6%A7/

その他のカーボン・オフセットのラベル

 第三者認証認証ラベルの取得には一定の手間とコスト(CO2の算定やクレジット費用などと別の認証費用)がかかりますので、自社のカーボン・オフセットを何らかのロゴマークで表現することが目的の場合には、自治体やカーボン・オフセットプロバイダー等が発行するロゴマークや証明書を活用することも可能です。

 当社においても、再生可能エネルギー由来のクレジットや非化石証書を活用する顧客の事業所はイベントに発行する再エネ証明書、省エネ由来または森林吸収由来のクレジットを活用する場合に発行するカーボンオフセット証明書を運用しております。


図_第2回_04
図_第2回_05

デジタルグリッドの発行する証明書

 

次回は、実際のカーボン・オフセットの特徴的な取組みや最新の事例を用いて、カーボン・オフセットの動向について説明をしてまいります。


デジタルグリッド株式会社
REC Manager 池田陸郎