カーボン・オフセット譚(第4回)
今回はボランタリーな環境活動としてのカーボン・オフセットの事例を紐解いてまいります。制度に対応する場合と異なり、実施方法の自由度が高いがゆえにストーリーを工夫する必要があります。
目標や義務ではなく付加価値としてのオフセット
例えば「我が社の脱炭素制度への義務対応のため、J-クレジットを用いてカーボン・オフセットされた商品です。」と言われても共感を得ることは難しいでしょう。ボランタリーなカーボン・オフセットは、自己都合による脱炭素活動とは別に、地球環境への負荷低減のために追加的な取り組みへ思いを巡らし、顧客や消費者からの共感を得られるような定量的定性的な貢献活動として実施することが望ましいあり方です。
ただ、あくまでボランタリーな取り組みなので、どの範囲のCO2排出量を何%までオフセットすべきか等は実施者の考え方や予算に応じて自主的に決定して構いません。留意すべき点としては、第2回で述べたとおり誇大な表現や理解しづらい形、脱炭素への貢献度が低いと思われる取組は避けるべきことです。
それではボランタリーなカーボン・オフセットの具体的な事例を確認しながら、どのような種類や手法があるのかを見てゆきましょう。
商品・サービスのオフセット
企業が自社の商品やサービスの付加価値向上等を目的として、商品の製造工程やサービスの利用時などに生じるCO2排出量をカーボン・オフセットする手法が一般的ですが、商品やサービスに関するCO2排出量の算定に手間がかかるため、「1商品あたり1㎏-CO2の削減」のように、商品の購入により一定のCO2の削減につながる「カーボン・オフセット付き」商品のような取り組みのほか、商品の売り上げの一部をクレジットの購入額に充て、クレジットを創出する森林づくりのプロジェクトなどを応援する「寄付型オフセット」という取り組みも存在します。
事例① 商材で顧客の脱炭素に貢献
カルネコ株式会社では、顧客から発注を受けて作成するPOP等の印刷物の製造と輸送におけるCO2排出量をカーボン・オフセットによりゼロにして納入することで、顧客のプロモーション活動の環境負荷を低減させる取り組みを続けています。オフセットに用いるクレジットを国内各地の森林プロジェクトから調達することで、オフセットを通じて顧客が森づくりに貢献することもできる取り組みです。
東北地域カーボン・オフセットグランプリ資料より
事例② 選ばれる理由としてのオフセット
斉藤商事株式会社では、自社で製造販売するユニフォーム1着につき1㎏-CO2のクレジットを付与することで、納入先の企業がユニフォームの着用を通じて脱炭素に貢献する取組みを展開しており、付加価値として様々な企業からの評価を受けています。
斉藤商事HP:https://www.saitoshoji.co.jp/?p=9598
斉藤商事株式会社のカーボンオフセット活動の詳細については筆者も取材をしたことがあますので、取材の様子を以下YouTube動画にて共有しておきます。
「脱炭人のこゝろ」より 斉藤商事のカーボンオフセット紹介(※音声が出ます)
消費者とともに脱炭素を
株式会社ニチレイフーズでは、冷凍食品の売り上げの一部を全国の森林由来のクレジット調達に充てる寄付型のカーボン・オフセットを展開しています。消費者が商品を購入することで森づくりに貢献できる仕組みとして2021年度の東北地域オフセットグランプリでSDGs賞を受賞しています。
東北地域カーボン・オフセットグランプリ資料より
会議イベントのオフセット
イベントを開催するにあたり、ゴミの分別や持ち帰りの促進はよく見られますが、目に見えない環境負荷であるCO2排出量を算定把握しカーボン・オフセットを実施する取組みが広がっています。サミットや展示会などのイベントのほかJ-リーグやマラソン大会などスポーツ大会などに幅広い分野へ浸透しつつあります。
イベント参加者から費用を徴収
毎年横浜で開催される世界トライアスロン横浜大会では、参加者一人あたり200円を環境協力金として集め、カーボン・オフセット等の環境活動に活用しています。この大会では、選手やスタッフの移動や大会会場のエネルギー使用量や廃棄物処理のCO2排出量をカーボンオフセットの対象としています。参加者自身もイベントにおける環境負荷の一部であることを意識し行動してもらう取り組みとして、各地のスポーツ大会の手本となっています。
横浜トライアスロンHP:https://yokohamatriathlon.jp/wts/environment.html
SDGsとカーボン・オフセット
脱炭素に貢献するカーボンオフセットは、SDGsに向けた取り組みとして実施されることも多く、活用するクレジット種別やオフセットスキームの内容によって目標13「気候変動に具体的な対策を」のみならず様々なコベネフィットにつなげることが可能です。
秋田県横手市では、市有林の整備育成により創出されるJ-クレジットの活用により、社会環境にどのように貢献できるかをウェブサイトで紹介しており、これに共感する多くの事業者が繰り返し横手市のクレジットを活用し続けています。
横手市HP:https://www.city.yokote.lg.jp/kurashi/1001139/1001234/1003781.html
このように、ボランタリーなカーボン・オフセットの実施にあたっては、打ち消す対象のCO2排出量の範囲や活用するクレジットの創出側への貢献ストーリー、費用の負担方法の工夫による環境への責任の明確化など、企画内容によって見え方や普及効果が大きく変わることを念頭に進めてゆくことが大切です。
次回最終回では、2030年に向けて加速する脱炭素社会におけるカーボンオフセットの展望について述べてまとめたいと思います。
デジタルグリッド株式会社
REC Manager 池田陸郎