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東証カーボン・クレジット市場の取引報告

10月11日から開始されたカーボン・クレジット市場に参加し取引を行ってみましたので、その様子や現在までの状況概況を報告します。
ひとまずの印象としては、取引システムが透明性に欠けるなど少々課題があると感じましたので、その理由を説明してまいります。

取引の内容について 

 まず取引される市場をご覧いただくには、取引参加者として企業が登録した後、担当者のパソコンや携帯電話に設定する第三者認証によってログインが必要です。市場の閲覧や取引をするために必要に応じてログインIDを追加可能ですが、広く一般には公開されていない比較的クローズな市場と言えます。
 なお取引の結果については、毎日市場のウェブサイトの「カーボン・クレジット市場日報」からPDFデータで閲覧可能です。日報では約定の実績を確認できますが、約定がない日は市場がどのような価格で売りと買いの注文が飛び交っているかまでは確認できませんので、日々の動向を確認したい場合は、取引参加者として登録することをお勧めします。

 今回は説明に用いる図表の文字が小さいため、お手数をおかけし恐縮ですが適宜拡大してご確認いただけますと幸いです。

東証5
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/index.html

東証6
カーボン・クレジット市場日報

 さて、取引市場の注文一覧と実際の取引の流れを振り返って見てまいります。
今回は、電力の再エネ化に活用可能で、国際的な脱炭素目標の達成にも削減カウントできる再エネ(電力)由来のJ-クレジットを中心に説明をいたします。

①10月11日の午前
東証7
 市場開始の初日午前中の某タイミングでは上記の図のとおり、再エネクレジットは単価が3,333円~3,900円の幅で1t-CO2から15,000t-CO2まで複数の売り注文が展開されています。
 筆者はこの初日の午前中で取引の動作確認をすべく、約定される確度を高めるため3,900円で1t-CO2だけ買い注文を入れました。3,900円以上の値段でこの時点の売り注文の総量以上の買い注文が入らない限りは筆者の3,900円の1t-CO2が約定されます。

②買い注文後
東証8
 筆者が買い注文を入れた直後、3,900円の売り注文の上に1t-CO2の買い注文(自らの分)が表示されました。
 午前中の取引(9:00-11:29)が終了する時点で、売り注文の総量以上の買い注文が入らない限りは筆者の3,900円の1t-CO2の買い注文は、最安値の3,333円の売り注文と約定することになります。

③約定結果
東証9
 さて、午前中が終わり12時ごろに約定の結果を確認すると、上図のとおり3,169円で取引が成立していました。午前中が終わるギリギリのタイミングで3,333円より安い値段3,169円で売り注文が入ったということです。

④ 10月11日の午後
東証10
 この日の午後は3,333円の1t-CO2は約定されず残ったままでしたが、更に安い3,170円という売り注文が入っていました。

⑤ 10月11日の日報
東証11
 初日において、再エネJクレジットは3,562t-CO2の約定量で、値段は3,060円~3,169円の幅で取引されたことが日報から確認できました。

以上が市場におけるクレジット購入までの流れです。


再エネJクレジットの環境価格について

 ここで、今回筆者が約定したクレジットについて確認します。

 クレジット認証番号:1023101
 PJ番号:231
 実施者名:愛媛製紙株式会社
 約定値段:3,169円

 クレジットを電力使用量(kWh)の再エネ化に活用する場合、どのくらいのkWhを再エネ化できるかについては、クレジットごとに換算値が異なります。
 今回のクレジットの認証番号から、Jクレジット制度のウェブサイトにおける認証クレジットリストを参照し、231番の愛媛製紙のプロジェクトの01回目の認証分のクレジットだと確認できます。
 下の図のとおり赤文字の1回目と緑文字の2回目で微妙にkWh換算値が異なることが分かります。
今回は1t-CO2で1,128kWhのクレジットを3,169円で購入したので、2.8円/kWhという価格に換算することが出来ます。

東証12

 一方、これまで例年Jクレジット制度事務局が入札で買い手を募ってきたクレジットのプロジェクト内容を確認します。
東証13

 仮に今回、上記のクレジットを今回と同額の3,169円/t-CO2で約定できた場合、3,169÷2,310=1.37円/kWhという価格で調達できたことになります。2.8円/kWhの半額以下となります。
 kWhへの換算量はクレジットの良し悪しではなく、当該CO2削減プロジェクトの方法や削減された電力の内容によって変化するものですが、取引の公平性・透明性を考慮すると、kWhに換算した場合の値段も市場に開示されることで問題をある程度解決できると考えます。

 現状、カーボン・クレジット市場ではクレジットの具体的なプロジェクト内容や換算値を約定前に知ることはできませんので、電力の再エネ化のために再エネJクレジットを調達する場合は注意が必要です。
 売り注文に出ているクレジットの内容を確認するには、まず1t-CO2だけでも約定し、内容が望ましいようであればその後に必要量を希望価格で買いに行くなどが考えられますが、買いたいクレジットよりも安い売り注文が入ると、そちらのクレジットが約定されますので、場が閉まるギリギリまで様子を見るなどの工夫が必要です。
 10月12日の午後、まさにこのような行動と思われる注文が展開されました。

12日の午後:14時20分時点(終了までこの状態でした)
東証14

 15,000t-CO2というボリュームのクレジットについて、クレジットの内容を確認するために1t-CO2だけ調達したいであろう状況において、これを買うにはその下の価格帯の3t-CO2を全て退ける(調達する)必要があり、4t-CO2という注文を入れていると考えられます。

その後、午後の場が終了した直後の注文一覧が以下
東証15
 15,000t-CO2のうち1t-CO2およびその下の価格帯の3t-CO2が約定された後の様子です。


 以上のとおり、現状はクレジットの内容の確認またはお試し調達と思われる1t-CO2の約定(10月17日や10月24日の日報)や注文が展開されていますが、いずれにしてもRE100等における再エネ経営のためにkWh単位で再エネJクレジットを活用する買い手においては、t-CO2単価をkWh単価に換算すると倍以上の開きがあるリスクを考慮しておく必要があります。

 なお、省エネクレジットや森林クレジットについても、プロジェクトの内容は確認できませんが、これらはkWhに換算することはできませんので、t-CO2単価がそのクレジットの正味の価値とイコールになる点での安心感はあります。

 今後も市場取引における動向を注視し、適宜このブログで報告するとともに、市場の画面を共有しながら、取引実況セミナーなども開催を検討しております。


デジタルグリッド株式会社
RE Manager 池田陸郎