コラム一覧へ戻る

【10月11日から】東証カーボンクレジット市場で取引開始

昨年2022年度に試行的に実施された東証のカーボンクレジット市場が今年の10月11日より本格的に始動します。
今後、市場の取引状況について定期的にコメントをしてまいりますが、まずは昨年度も試行してたの?という方へ、その実績からご紹介しましょう。

試行実施について 

 以下はJ-クレジット制度運営委員会の資料からの引用ですが、昨年9月22日から1月31日まで試行的に取引されたクレジット市場の結果をまとめたものです。
取引されたクレジットは多岐に渡りますが、以下のとおり省エネ系、再エネ系、森林系の3種類に大別されていました。
 この大別について、さらにそれぞれ削減の方法(例えば再エネにおいても太陽光やバイオマス、再エネ熱など)によって売り出し価格が異なっており、買い手はクレジットの内容と価格を確認した上で買い注文を入れると、その日のうちに注文結果が通知され約定が成立した場合は10日程度で決済とクレジットが取得できるという流れでした。
 下記の結果表については詳しく述べませんが、RE100やCDPなどにおけるScope2(電力や熱の使用量)の削減に反映可能な再エネ系クレジットに需要が集まったほか、温対法のCO2排出量の調整に使える省エネ系クレジットについて、試行市場の開始直前に制度事務局が実施した入札の結果より安く入手できる価格帯のものに取引が集中した印象です。

東証_1-1https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/20230131-01.html

2022年9月の試行取引前のJクレジット制度事務局による入札の結果東証_2-1
https://japancredit.go.jp/tender/data/nyuusatsukekka_13.pdf

本稼働する市場
 2023年10月11日から開始されるクレジット市場の取引システムについては、昨年の実証と大差はありませんが、参加者を適格請求書発行事業者に限定する点や制限値幅率などに若干の変更があります。
具体的な内容は以下リンクより内容をご確認いただけますと幸いです。

カーボン・クレジットオンライン説明会資料
株式会社東京証券取引所2023年7月・8月
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/participants/co3pgt0000001890-att/OnlineSetumei.pdf

市場取引への参加について
 クレジット市場は以下の要件を満たす団体であれば参加可能ですが、要件eに「クレジット登録簿の口座を開設していること」とありますので、法人格を有する事業者でないと実際は参加できないと思われます。
Jクレジット登録簿システムの開設について
https://japancredit.go.jp/application/account/

東証_3

現在公開されている市場への参加者リストにおいても法人格を持った団体のみが名を連ねています。

カーボンクレジット市場参加者リスト(2023年9月19日現在)
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/participants/co3pgt0000001890-att/0919sankasha.pdf

具体的な取引の留意点
 ここで取引の売り買いの注文画面を紹介します。
試行においては、中ほどの列のようにクレジットを創出した方法論(設備などの情報)まで確認することが出来ましたが、本稼働する市場ではここまで詳細な情報を指定して買い注文を入れることは予定されていません。つまり、本稼働する市場においてクレジットの調達をする場合は、「○○(地域や方法論など)のCO2削減で創出されたクレジット」というストーリー性を重視する買い手には不向きと言えます。
 一方で、価格や量といった条件の合うクレジットを調達し、温対法やRE100などの目標達成をする、といったクレジットの「機能」を重視する買い手に向いていると言えます。
 ただ、気を付けるべき点は、RE100などで推奨されるクレジット創出ビンテージや、t-CO2の再エネクレジットをkWhに換算して活用する場合の換算値なども買い注文時には指定できないため、場合によっては古いクレジットや、kWh換算値の悪いクレジットを約定する可能性もあることを念頭に置いておく必要があります。

東証_4

 上記のようなテクニカルな背景のほか、日々変化する売り買いの状況を確認しながら、即時的な判断をもってクレジットの取引に参加をすることは企業の担当者として少々ハードルが高いと言えます。
 なお、GXリーグにおける排出権取引については、本市場システムと同様のシステムを別途立ち上げて、リーグ参加者同士が超過削減枠などの取引をする予定とのことです。

次回は、10月11日以降の取引の状況について、10月下旬を目途に実際の取引を実行する様子を共有して解説いたします。

デジタルグリッド株式会社
RE Manager 池田陸郎