デジタルグリッドコラム

世界の消費者のサステナブル意識を紐解く~ジェトロ消費者座談会~(1)プラスチックへの消費者意識


 世界的に脱炭素化の潮流が加速する中、企業のみならず消費者レベルでも環境配慮やサステナビリティへの意識は高まっています。米国のシンクタンク、ピューリサーチセンターが2021年9月に発表した調査によると、日本を含む17の先進国・地域の約2,600人のうち、72%が「世界的な気候変動が自身の人生を傷つける不安がある」と答えました。加えて、80%が「世界的な気候変動による影響を減らすために自身の生活や仕事を変える意思がある」と答えています。他方、サステナブルな消費行動を実際に行う際には、コスト、情報不足、サステナブルな製品・サービスへのアクセスなど、様々な課題があります。

 企業側の目線では、各社のカーボンニュートラル目標の達成に加え、所在する国・地域の目標達成への貢献を実現するためには、上記のような課題を克服し、消費者を惹きつける製品・サービスの開発、販売や広告戦略の検討を行う必要があるでしょう。
では、どのようなサステナブル消費の意識を持って、消費者は購買を行っているのでしょうか。

 このような疑問に1つの解をご提供すべく、ジェトロでは2022年12月から翌3月にかけて、消費者を集めて「サステナブル消費」をテーマとした座談会を世界9都市(注)で行いました。同座談会参加者には、実際にどのような製品・サービスを購入しているのか、購入の際にどのような点を重視しているのか、環境に配慮して買わないものはあるのか・・・といった様々な視点から意見をお伺いし、レポートにまとめました。過去1年に環境に配慮した製品・サービスを購入した方を対象としましたが、1都市で集まっていただいた人数は5人程度。本結果はその都市を代表する意見・考えであるとは言えませんが、意識的に行動している消費者の生の声から、サステナブル消費の実態の一端を垣間見ることができました。

 今回は、その中から各地域の特色が現れた意見を中心に2本にわたってご紹介したいと思います。1本目の本コラムでは、プラスチックに対する意識を、座談会参加者の声から見てみることにします。
 日本でも2020年7月に全国一律でプラスチック製レジ袋が有料化され、エコバッグの利用は日常的な行動になっているでしょう。また、2022年4月には「プラスチック資源循環法」が施行され、プラスチックのストローやカトラリーなどの12品目が「特定プラスチック使用製品」に指定されました。該当する製品を使用する業種では、提供する製品から発生するプラスチックごみの抑制に取り組まなければならないという方針も示され、日本での取り組みも進み始めています。ですが、世界的にみると、諸外国の方が早くプラスチックごみの問題に着手し始めています。特に取り組みが進むのがEUです。EUでは2018年に「欧州プラスチック戦略」を発表し、使い捨てプラスチックの使用禁止に加え、一部の国ではプラスチック製の包装の禁止や課税、缶やガラス瓶を含む飲料ボトルのデポジットスキームの導入などへ広がっています。

 座談会においても、プラスチックに対して最も激しい意見を寄せたのは欧州の消費者でした。スペインでは、「『プラスチック=悪』という認識がある」など、プラスチックへの嫌悪感を強く示す声が聞かれました。また、「(製品購入時、)価格よりも包装がプラスチックかどうかが大きな判断基準」、「(購入を検討していた製品が)2~3割しかリサイクルできない素材と知って購入をやめた」と、購入の際に包装がプラスチックかどうか、リサイクルできる素材かどうかを重視していました。
 ドイツでも、「過剰包装が少なくなり、プラスチックから紙に代わってきている」、「プラスチック包装の代わりに、竹、藻、キノコなどを原材料にした梱包材が開発されている」と、小売の現場での変化を感じているようでした。実際に、筆者の同僚がドイツに出張し、スーパーマーケットの売場の様子を送ってくれたのが、以下の写真です。野菜や卵はばら売りで売られており、布や紙などの再利用・リサイクルしやすい素材の袋や容器が用意されていました。



ドイツのスーパーマーケットの様子(ジェトロ撮影)
 

 対して、ASEANやインドでは、使い捨てプラスチックの規制は進んできているものの、消費者の意識はエコバッグ、マイボトル利用など、基本的な行動への言及にとどまりました。ただし、その中でも使い捨てプラスチック削減への意識は高く、プラスチック製のストローやカトラリーは使わない、もらわないという消費者は多くいました。これは、カフェやレストランなどが積極的に使い捨てプラスチック削減のためプラスチック製ストローやカトラリーの配布を原則禁じたり、バイオマス素材に切り替えたりしており、産業界の動きが消費者の行動を変容させていると思われます。筆者が駐在していたマレーシアでも、2019年より使い捨てプラスチックへの規制が強化され、飲食店で使い捨てプラスチックのストローはほぼ見かけなくなりました。ベトナム・ハノイで入ったカフェでも求めない限りはストローは提供されませんでした。こうした取り組みは日本でも浸透してきています。


ベトナム・ハノイのカフェ。ストローは原則提供されない。(ジェトロ撮影)

 プラスチックに対する意識が欧州とASEAN・インドの中間程度だと思ったのが、米国と台湾です。両者では、特に製品の過剰包装への指摘がありました。米国では、Eコマースを日常的に利用している消費者が多かったのですが、「手のひらサイズの製品でも大きな箱に大量の緩衝材が入って届くので、少量の買い物ではEコマースは利用しない」、「緩衝材を小売店で回収してくれるサービスがあるが、近所に店舗がなく利用しにくい」といった梱包資材に対するストレスを抱えているようでした。台湾でも、「一部の製品はエコを謳っておきながら、パッケージが過剰」と、製品の売り文句と過剰包装との矛盾を指摘する声もあり、あまりに包装が過剰だと購入したくないという意見もありました。
 また、日本の製品に対しては、「過剰包装のイメージが強い」という声もありました。鮮度などが気になる製品ではプラスチックの個別包装を受け入れる意見も聞かれましたが、やはりパッケージが過剰すぎて見えてしまう製品は受け入れられにくいようです。

 欧州、米国、インドなどで、消費者の方に普段利用するお店を教えてもらったところ、容器を最小限にできる量り売りショップを挙げる方が複数いました。特に食品関係の量り売りでは、穀物類、スパイス、茶、コーヒー、油といった品揃えが中心でした。どちらかといえば、野菜や穀物など、あまり加工されていない製品では簡易な包装を求め、加工食品類ではプラスチックの包装を受け入れる傾向が強いように思います。


 
ドイツ(上)、米国(下)の量り売りショップ。穀物、茶などの品揃えが多め。
(ジェトロ撮影)

国・地域での規制に対応しつつ、使い捨てプラスチックを削減する努力は重要です。他方で、プラスチックを使っていないから受け入れられるという図式が成り立たない製品・サービスもありそうです。

(注)2023年1月実施:マドリード(スペイン)、ベルリン(ドイツ)、ストックホルム(スウェーデン)、シンガポール、バンコク(タイ)。2023年2月実施:サンフランシスコ(米国)、台北(台湾)、ホーチミン(ベトナム)。2023年3月実施:ニューデリー(インド)。ストックホルムについては、消費者2名への個別インタビューのみを実施。

以上


日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部 国際経済課
田中 麻理  Mari Tanaka