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海外のボランタリークレジットの活用事情

スコープ1におけるクレジット利用について

 現時点でGHGプロトコルに沿った炭素会計ベースで、スコープ1の排出の数字を減らすことが可能な外部由来の環境クレジットは存在しません。バイオガス証書は現在行われているGHGプロトコルの改訂作業によって、今後再エネ証書のように属性証書として使用可能になるのかの判断が待たれるエリアです。

 カーボンオフセットについては、GHGプロトコルの改訂後も、現在のプロジェクト会計として別計上スタイルからの変更がある可能性はほぼないので、GHGプロトコルに沿った炭素会計上“削減”とみなされることは今後もないだろうというのが現在地です。Science Based Targetsのもとで目標を設定する際にGHGプロトコルを使用するのがマストであるゆえ、GHGプロトコルがどの環境クレジットのツールを許す許さないはSBTを立てている企業にとっては大きな関心ごとです。

スコープ1におけるカーボンオフセット利用の背景

 ではなぜGHGプロトコルベースでの炭素会計において“削減”したとみなされないにも関わらず、海外でカーボンオフセットが使用されたり、日本でカーボンニュートラルLNG、カーボンニュートラル都市ガスなどをはじめ、対スコープ1でカーボンオフセットが使用されているのでしょうか?

 理由の一つはスコープ1の削減しずらさ、削減の選択肢の少なさにあります。スコープ1の削減には電化や再エネ由来の燃料を使用するという選択肢もありますが、コスト問題や代替燃料の供給量不足が課題です。

自然財団

参考:自然エネルギー財団
バイオガスとグリーン水素の実用性
スコープ1削減の効果と課題
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20231214.php

 もう一つの理由はカーボンオフセットの持つSDGsに対する貢献力の高さです。全てのオフセットクレジットの持つ特性ではありませんが、質の高いオフセットクレジットを購入することで森や生物多様性を守ることに貢献したり、自社拠点のある国や途上国での雇用を増やしたり、飲み水の確保、子供達の教育などさまざまな貢献をすることが可能です。

 また企業が「カーボンニュートラル」という表現がしたい、というのもオフセット需要の背景にあります。去年の9月にAppleがApple Watchのラインアップで初めての「カーボンニュートラル」製品をリリースし、2030年までに全てのApple製品をカーボンニュートラルにすると発表しています。
https://www.apple.com/environment/

 ただし今年1月17日に欧州議会でオフセットを使用して製品やサービスが「カーボンニュートラル」と表現するのを禁止にするという趣旨で最後のゴーサインを出しており、欧州においては、これからオフセットベースでB2Cの製品やサービスが「カーボンニュートラル」だと表現ができなくなるのは注意が必要です。ただし現在合意されている「オフセットベース」という英語表現が完全に白黒はっきりしていないので各国の解釈の余地があり、オフセットを1トンでも使用したらカーボンニュートラル表記はできないのか、それともオフセットを主に使用していたらダメなのか、まだ100%見えない点もあるようです。
https://eeb.org/new-eu-law-empowers-consumers-against-corporate-greenwashing/

 

日本企業が海外のクレジットを調達するメリット

 海外クレジットの質もカーボンクレジットの方法論やプロジェクトごとでピンキリですので、トンあたり100ドルをゆうに越えるようなリムーバルクレジットもあれば、1ドルを切るようなクレジットも存在します。ただ基本的に先進国より物価の安い途上国でカーボンクレジットを創出する方がトンあたりの創出コストは安くなるので、海外のクレジットの方がJクレジットなど日本由来のクレジットより安いことが一般的です。この価格優位性は日本企業にとっては魅力です。

 また海外クレジットだと世界が対象になるので、それぞれの国の状況によって適応できる方法論がグッと広がるのでよりバラエティーに富んだプロジェクトから、買い手が目的にあったクレジットを選ぶことが可能です。例えば日本国内においては、綺麗な飲み水がなく水を飲めるようなクオリティにするためだけに薪を拾いに行って火を起こして飲み水を作る必要のあるようなエリアはほぼ存在しないと言えますが、海外に目を向ければ今でもそのような地域はあり、貧困と気候変動の二つと戦えるようなクレジットを通じて社会貢献することができます。

日本企業がカーボンクレジットを使用する際の留意点

 日本のクレジット海外のクレジットに関わらず、カーボンクレジットを使用する際には、まず企業内またサプライチェーン内での削減努力が前提です。自主努力後、目的や予算に合わせて、海外クレジットにするのか国内クレジットにするのか決定した後、グリーンウォッシュと言われないためにも、クレジット使用に関する情報開示もますます重要になっており、情報開示に耐えゆるような質のいいクレジットを使用する必要があります。クレジットの使用に関するガイダンスとして、優等生を目指すのであればVCMI (Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative)が出しているClaims Code of Practiceを参照してもいいかもしれません。
https://vcmintegrity.org/vcmi-claims-code-of-practice/

VCM

 カーボンクレジットはそれぞれのプロジェクトがユニークであるがゆえ、質の高いクレジットとは何かの判断は非常に難しいです。ICVCM (The Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)の発表したCCP (Core Carbon Principles)に合致していると承認されるクレジットを選ぶというのは選択肢のひとつですが、まだ審査プロセスが終わっておらず、審査後もCCP承認されるクレジットは非常に少ないと予想されています。
https://icvcm.org/the-core-carbon-principles/

CCP

経験豊富なプロバイダーを選んだり、クレジットの格付け会社を利用するのも手段の一つです。

 

Gaia Environment (S) Pte Ltd                                 Team Manager 笹子真由 Mayu Sasako