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電気の購入先を変更(スイッチング)しようと考えている方へ

電力の自由化で気になる「電力の安定供給」についてQ&A方式でまとめてみました。

Q1:電気の購入先を変えると停電しやすくなり「安定供給」が維持できなくなりますか? 

 そういったことにはなりません。
 電気自体は、発電事業者→送配電事業者→各法人もしくはご家庭、といった流れで需要場所に届けられます。電力自由化に伴い、元々全国に10ヵ所(沖縄含む)ある各電力会社は役割毎に組織変更が実施され、多くは「発電」「送配電」「小売り」の3つに分けられ、この「小売り」を別会社にすることで電気の購入先を変更(スイッチング)することができるようになりました。「小売り」の新規参入企業が「新電力」と呼ばれています。つまりスイッチングしても、「小売り」は変わるものの、「送配電」事業者から電力が来ることは変わらないのです。
 
 各家庭の例で見ると、家と屋内の電気設備は全て需要家の所有物です。一方で電気を引き込んでいる電線(引込線と言います)は「送配電」の所有物であり、家屋への取付点が財産・責任分界点となって、そこから先の設備は全て「送配電」の所有であり、保守責任が生じています。家屋内の不具合による停電を除き、引込線や配電線、変電所などのトラブルによる停電については全て「送配電」事業者が復旧します。

 設備について言及しますと、電柱、柱上変圧器、電線など、「送配電」が保有している設備は「事業用電気工作物」と呼ばれます。また、工場やビルなど、高圧・特別高圧で受電されている設備は「自家用電気工作物」と呼ばれ、設備を保守・管理する責任者「電気主任技術者」を設置することが義務付けられています。対して、一般家庭の電気設備は「一般用電気工作物」と呼ばれ、主任技術者の設置は義務化されていませんが、目にみえない「電気」というものに不安を感じる方もおり、安全な状態を保つことが困難な需要家もいらっしゃることから、「一般用電気工作物」の保守・管理は当該エリアの「送配電事業者」に国から委託されており、電気の安定供給を継続する責務があります。各家庭に4年に1回、「電気の点検」と言って、「送配電」から委託された業者が訪問して点検を実施するのはそのためです。
 まとめると、電気の購入先を変更すると「小売り」は変わりますが、「送配電」は変わらないので、上記した通り、電気の供給信頼度としての変化はありません。
 もちろん、設備上の差異が無いことに加え、各需要家への対応について差別的なことをするのは固く禁じられており、従来の電力会社の小売り部門から離脱したとしても、停電時に以前と違う扱いを受けることはありません。(事業者によっては、一部のサービスが有償となる場合があります)

 ただ、「送配電」の部分も自由化はされているので、ここが変わると話は大きく違ってきます。需要家の了承無く「送配電」の事業者が変わることはありませんが、近年、大規模災害時の広域停電が生じた際の事業継承策として、「地域マイクログリッド」が検討されています。これが実施されると「送配電」事業者が変わる可能性もあり、スイッチングなどにも制約がかかる場合もあるため、内容をよく確認する必要があります。

Q2:電気の購入先「小売り」を変えると、電線の張り替え、メーターの取り替えなどが必要になるのでしょうか?
 
  前項での説明の通り、電線もメーターも資産保有者は「送配電」なので、「小売り」を変えただけでは交換の必要はありません。引き続き使用することが可能です。一方で「送配電」事業者が変わった場合は変更が必要となる場合があります。

Q3:スイッチングした先の新電力が倒産したらどうなるのでしょうか?

   電力の自由化以降は、最終的な電気の供給義務を「一般送配電事業者」が負っています。そこで、「小売り」が倒産しても高圧や特別高圧の企業が電気の供給が受けられなくならないように電気事業法(17条)にて「最終保障供給」というセーフティネットが規定されています。正当な理由が無い限り電気の供給を拒むことができないため、若干の事務手続きと、やや割高な電気料金を良しとすれば、電気の需給は継続できます。もちろん、さらに別の新電力にスイッチングすることも可能です。

 電気が止まるのは、利用済の電気料金支払いが遂行されなかった場合です。低圧でも高圧でも、電気の系統は他の需要家と接続されているので、当該需要家の接続点にあるスイッチをお客様からのご依頼に基づき「切り」にしない限り、停電はしません。仮に電気料金支払いがされなかった場合、滞納してしまった料金を支払う(延滞金が追加される場合があります)ことで、速やかに電力供給は再開されます。ですから契約している小売り事業者が倒産しても、使用している電気料金の供給元に料金を支払うことで電気の供給は継続されます。
前記した通り、一般送配電事業者には「最終保障供給」責務がありますので、「小売り」が倒産した場合、お客さまが特に何もしなかった場合は、当該エリアの一般送配電事業者が電気の供給を引き継ぎます。最終保障の単価となるので電気料金としては若干高くなってしまいますが、こちらでの支払いをきちんとされれば電気が止まることはありません。
もちろん、新規引き受けの新電力を探してスイッチングすれば、そちらでの供給となります。

Q4:「小売り」をスイッチングし、設備を何も変えていないのに、新電力は使用電力量をどうやって計測して請求書を作成するのか?
 
  かつては電気の検針員が各企業やご家庭を巡回し、メーターの数値を記録していました。一部施設が整っていない箇所もありますが、今は全国的に「自動検針」が実施されています。これは各企業や住戸(需要場所)に設置してあるメーター(電力量計)の使用量の情報を、有線または無線通信によって一般送配電事業者が集約し、それを小売り事業者が料金請求等に使用しています。スイッチングすると、この情報が一般送配電事業者を通じて新電力にもたらされるため、新電力は現地に赴いて検針をすることなく、この情報を使用して需要家に電力料金の請求をすることができます。この情報利用料は間接的に手数料として一般送配電事業者に「託送料金」として支払われています。

Q5:停電が多くなる(供給信頼度が下がる)ことはないのは理解した。逆に供給信頼度を上げるにはどうしたら良いか?
 
  低圧の一般住宅であれば、太陽光発電システムの設置した上で蓄電池の設置などが考えられます。大規模災害による広域停電時に、1戸の家を独立して点灯させることが可能です。従来は通常のコンセントとは別に、「非常時用コンセント」が独立して設置され、系統の停電時にこのコンセントのみ使用可、というシステムが多かったです。これでも、僅かな照明、スマートフォンの充電程度であれば十分だったのですが、最近は家の大元でスイッチを切り替え、家全体を蓄電池+太陽光発電で生かすシステムも出始めています。このシステムでは、普段から使用している冷蔵庫などもそのまま生かすことが可能ですが、利用できる容量と、災害による停電の継続時間を考慮し、上手に節電することが必要と思います。

 高圧以上の場合は供給方式を変えることが第一歩です。一回線で供給されている場合は、その主契約を2回線供給の本予備契約とする。さらに本予備の予備線側を本線とは別系統のものにしていただく。※当初負担金がかかる場合があります。本予備に加えて「予備電源」(3回線め)も配置するなど費用はかかりますが、供給信頼度を上げる方策はありますので、送配電事業者と相談下さい。

 エリアなどの条件が揃えば「スポットネットワーク供給方式」という供給信頼度の高い方式を選択することも可能です。これは、電気の供給を配電線路3回線で同時に実施するシステムです。本予備の契約ですと、1回線で事故が生じた場合、一旦停電して健全な2回線側に切り替えて復電させるものですが、スポットネットワーク供給は常に充電されている3回線が接続されているので、1回線で事故が生じても自動的に当該事故回線が切り離され、残り2回線で無停電での電力供給が継続されるシステムとなっています。具備すべき継電器類が若干複雑になること、設備のスペックが上がることなどによってイニシャルコストが上昇してしまうこと、システムの適用エリアが限られてしまうこと、などの制約はありますが、供給信頼度としては確実に上昇するため、ご検討の際は送配電事業者にご相談下さい。

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