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気候危機と最近のサステナブルファイナンスの動きー企業に求められている事は何か?(第2回)

第2回 

 前回は、気候対応を中心にサステナブルファイナンス全体の最新動向をお伝えした。
今回は、COP26において重要なテーマの一つでもあったclimate justice(気候正義)について述べることとする。


はじめに~なぜ途上国からCOP26参加者が多いのか


 まずは、COP26に関連する質問から。
COP26はコロナ禍の影響がありながらも世界各国から多数が集った。その中で参加者が多かった国は、果たしてどの国だったでしょうか。
1位はブラジル479名、2位はトルコ376名、3位はコンゴ373名、そして日本は12位で225名。

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また、今回のCOP26参加者がCOP史上最高の約4万人であり、NGOからの参加者も多いことは注視すべきことである。企業がマルチステークホルダーへの配慮を掲げる場合、投資家に限らず、NGOなどの活動動向も把握する必要がある。

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出典:https://www.carbonbrief.org/analysis-which-countries-have-sent-the-most-delegates-to-cop26

 

 さて、参加上位国にブラジルほか、途上国から多くの人が参加しているが、その要因として考えられるいくつかの具体的な事象を紹介する。

  • アフリカ大陸、南北アメリカ大陸、アジア等での深刻な干ばつ、台風、洪水等により住み続けることが困難となっている
  • 氷河等の溶解の影響で海水面の水位が上昇し、一部の島国や沿岸地域の住民は移転を余儀なくされている。
  • 海水温の変化により漁業が変化・移動し、生業が成立せず生活が貧困化している
  • 大規模農業推進による化学肥料の使用や森林伐採等による生態系破壊が深刻となっている
  • 工業製品であり、先進国由来のプラスチック廃棄物等が途上国へ輸出・放置された結果、健康被害が生じている

    温暖化による被害予測については2019年に出されたレポートの中で以下の図の様に示されていたが、既に途上国では甚大な影響が出ている状況である。

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出典:https://gca.org/wp-content/uploads/2019/09/GlobalCommission_Report_FINAL.pdf

 Oxfam and the Stockholm Environment Instituteの共同調査では、世界で最も裕福な1%の過去25年間の温暖化ガス排出は、世界の5割を占める貧困層の2倍以上であることが報告されている。
出典:https://oxfamilibrary.openrepository.com/bitstream/handle/10546/621305/bn-carbon-inequality-2030-051121-en.pdf

 途上国の人々にとっては、先進国中心に議論されている地球温暖化対策は、先進国の産業革命以降のこれまでの活動による累積CO2排出が引き起こした気候危機であるにも関わらず、被害者側の途上国の意見が十分反映されていないとの認識がある。また、今後の施策も先進国に有利な議論が進められるのではないかとの懸念を途上国側が持っている。
 地球温暖化対応策を検討するにあたり、途上国側の意見が聞き入れられない状況を示す言葉として“inclusiveではない”と表現されるが、これは“誰一人取り残さない“を掲げるSDGsの精神にも反する。そのため、特に若者の間では、自国の状況や考えを伝えるために、COP26は自ら赴き主張することができる良い機会であると捉えている。また、同時に様々な関連イニシアティブに参加し、協働して意見発信する活動にも力をいれている。
参考podcast:
https://theconversation.com/where-does-the-youth-climate-movement-go-next-climate-fight-podcast-part-4-170475

 COP26最終合意文書に記載された「先進国による途上国に対する資金援助」については、2015年パリ協定で合意した毎年1000億ドルの先進国からの途上国支援が実際は満額実行されていない状態であることを、かねてより途上国側が問題視してきた。その為、今般改めて本合意の履行が確認された意義は大きい。

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出典:https://www.climatechangenews.com/2021/09/17/latest-data-shows-rich-countries-little-closer-100bn-climate-finance-promise/

 ブラジルは、今や「地球の肺」と称されるアマゾン森林地帯を抱える南米の大国である一方で、多くの貧困問題も抱えている。世界が、アマゾン森林地帯保護を地球環境にとって不可欠とするのであれば、それ相応の対価を負担することを考えて欲しいとの期待もある。
CO2排出量削減策に関しても、途上国が今後経済成長する上で支障となるような排出削減策や規制が導入されれば、南北格差=貧富の格差の固定化もしくは拡大を懸念する声もあり、途上国側からは、先進国によるcolonialism(植民地主義)だ、との声も聞こえてくるほどである。ワクチン接種においても、先進国と途上国間では、経済力格差等の理由により自国民へのワクチン確保及び接種を十分に進めることができない国が存在し、コロナ禍も国家間の経済格差を拡大する要因ともなっている。

 さて、11月29日から12月1日までジュネーブでビジネスと人権国連フォーラムが開催された。ここにおいても気候変動が人々の人権に及ぼしている影響について議論があり、Climate Justiceの言葉が多く聞かれた。これまで脱炭素経社会に向けたJust Transition(公正な移行)は議論されてきているが、これは主に既存の電力会社や資源会社等の事業の再構築を指すことが多かった。その結果、事業の再構築に必要とされるトランジションファイナンスについても議論が重ねられ、国内外とも様々な施策・規則が整ってきている。また、Social視点における評価項目の一つとなっており、例えば、リオティントが撤退する事業部門の労働者に対して再教育(reskilling)の機会を提供することは評価対象である。しかしながら、今後は、Climate Justiceの視点も“責任ある企業”に求められる行動として、投資家から要請が強まるものと考える。今回の国連フォーラムに合わせ公表された報告書「UNGPs 10+ A ROADMAP FOR THE NEXT DECADE OF BUSINESS AND HUMAN RIGHTS」では、気候変動と人権侵害の関連及びそれに対する企業及び金融機関の取組強化の必要性が述べられている。
出典:https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Business/WG/ungps10plusroadmap.pdf

日本の自給率
日本はエネルギー資源においても食料調達においても自給率は低く、日々の生活を海外のサプライチェーンに依拠している。今後、日本社会全体がサステナブルであるためにはどうしたら良いか、国内のみならず海外のサプライチェーンも含めて考える必要がある。

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出典:経済産業省
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2018/html/001/

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出典:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/chapter01.html#a1

 日々の食品を輸入産品に依存しているのみならず、水についても以下に示すようなデータもある。日本人として「水は豊富にあり、タダ同然」との認識とは大きくかけ離れている実態も存在し、水資源のサステナビリティについても認識を高める必要があると考える。

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出典:https://www.wateraid.org/jp/sites/g/files/jkxoof266/files/2019beneath-the-surface.pdf

パーパス経営とSocial Justice
先ほど述べた自給率を踏まえると、社員の日常生活基盤そのものが海外に大きく影響されるという事情も含め、今後サステナビリティを議論するにあたり、経済安全保障、気候危機対応に関する議論は、健康で安全な生活を送るための人権尊重なども踏まえ、広い視野に立って検討する必要があるのではなかろうか。

2021年6月に再改定されたコーポレートガバナンス・コードにおいてサステナビリティ課題に関して取締役会で議論することが求められている。サステナビリティ課題のテーマとして気候変動に加え、初めて「人権」が明記された。また、金融庁から出されている「投資家と企業の対話ガイドライン」の中には、“ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等”がサステナビリティ課題として重要である、との記載がある。
出典:https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnux.pdf

2020年秋成立した日本のビジネスと人権に関する行動計画(略称NAP)及び、上記を受けて、本年9月に本邦初でMETIによるビジネスと人権に係るサプライチェーンに関する企業アンケートが実施された。同時期に実施されたJETRO調査の結果もあわせ見ると、人権取組に関する方針策定は、既に7割の企業が実施しているが、サプライチェーンに関わる具体的な対応はこれからの企業が多い。海外ではESG視点においても連結ベースで企業評価するのみならず、サプライチェーンも含め企業評価する動きが強まっているので、日本企業の迅速な対応が求められる。
出典:経産省 https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211130001/20211130001.html
JETRO  https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2021/c439b74323dc4bee/survey.pdf

日本では、ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion、D&I)への取組は女性活躍推進取組として位置づけられてきた。しかしながら世界では数年前からD&Iから、DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)に進化している。このEquityというのは、公平であることを指しており、例えば、男女の賃金格差の是正や多様な働き方を認めること、脆弱な立場にある労働者への配慮、等が含まれる。米国におけるBlack Lives Matter運動や#Me Too運動の広がりとともに、PRI署名の機関投資家においては、ESGのSocial視点として、DE&IやSocial Justiceもビジネスと人権(BHR)に含まれる重要なテーマとして、評価項目のひとつになっている。更に、人身売買の防止や人種差別問題対応を含め欧州を中心として、英国現代奴隷法に代表されるような法整備や米国で近年注目されている1930年関税法に基づく違反商品保留命令や輸出管理規則等貿易に関わる法令対応なども世界各地で広がっている。企業には、これらの課題への認識と対応が求められ、対応が不十分な場合、株主総会での株主提案や、訴訟に繋がるケースも増えている。
出典:The UNEP Global Climate Litigation Report: 2020 Status Review 
https://www.unep.org/resources/report/global-climate-litigation-report-2020-status-review

サステナブルファイナンスにおいても、ESGの各要素をそれぞれ別の要素をして考える方式に加え、例えば、気候変動とSocial Justiceを一体化して考えるClimate Justice視点へと進化してきている。
これは、SDGs washingやGreen washingを防止する上でも大切な視点である。E(環境)とS(社会)視点を考慮し、同時に目的を達成させる取組へ資金供給する流れにも繋がっている。その為にも、前回述べたように、企業のサステナビリティ取組みにおけるマテリアリティ設定、事業戦略との具体的な連携や適切なKPI設定などは必須である。加えて、関連の資金調達をする場合、ESG情報開示の更なる充実と資金使途の透明性への要請は今後更に強まるものと推察する。

その一つの参考例として、今年11月に公開したallbirdsについて取り上げる。
同社は2016年創業の新しい会社であるが、初値は21.21ドル(約2417円)と公開価格の41.4%高となるほか、公開時の資金調達額は3億ドル(約342億円)超、また時価総額はおよそ40億ドル(約4560億円)となった。日本にも店舗展開している同社のIPO時の時価総額がこのようになった理由の一つに、環境保全を事業の軸とし「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」というミッションを掲げている事、Bcorp認証を取得していることが考えられる。またそれらを実現するための基盤として、ダイバーシティ及びジェンダーに対する平等性、給料、労働に関する健康と安全、そして道義的行動を含む「公正な労働」を基盤としている事など学ぶ点は大いにある。また同社は環境先進企業として有名なPatagoniaに学び、更には事業規模が格段に大きいアディダスともコラボレーション等も、今後、企業がサステナビリティ取組を考える上で参考になる。
出典:allbirds 2020 サステナビリティレポート
https://cdn.allbirds.com/image/upload/v1628100851/marketing-pages/Allbirds_2020_Sustainability_Report_JP.pdf

環境取組に良いからといって人権尊重を重視しない企業は、これからの時代にあっては、社会から存在意義のある企業(パーパス経営企業)としての評価は受けにくいであろう。また、当然、ESG視点による資金供給を推進する金融機関からも評価されない。逆に投融資を行う金融機関自身にとっては自社及び取引先でもあるサプライチェーン上のSDGs目標達成に向け、他との差別化要因にもなる“真の目利き能力”の向上と共に、レジリエンス強化にも繋がるのではなかろうか。

最後に
日本では最近一般用語となったSDGsの説明のひとつに”ウエディングケーキモデル”があるが、それによれば、最下段の基盤は生物圏で、気候変動等が含まれている。その上に社会圏があり、人権や貧困対策、DE&I等が含まれ、最上段が経済圏となっている。これは、経済圏は生物圏と社会圏のサステナビリティ無くしては成り立たない事を示しているとも言える。

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出典:https://stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-how-food-connects-all-the-sdgs.html

 既に谷淳也氏によるブログ第2回に掲載されたが、地球の限界を考えるプラネタリーバウンダリー概念によれば、上記のSDGsウエディングケーキモデルの基盤である生物多様性は、気候変動以上に危機的状況で既に限界を超えている事が示されている。

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出典:平成30年版 環境白書http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html

そこで、次回は生物多様性に関して述べる事としたい。


銭谷美幸
第一生命保険(株)運用企画部 フェロー 兼 
第一生命ホールディングス(株)経営企画ユニットフェロー